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名古屋高等裁判所 平成4年(ネ)14号 判決

愛知県安城市上条町小薮九五番地

控訴人

兼松真純

右訴訟代理人弁護士

乾  子

右補佐人弁理士

宇佐見忠男

愛知県愛知郡東郷町大字春木字白土一番地の一一四五

被控訴人

松本節男

右訴訟代理人弁護士

富 健一

瀬古賢二

石上日出男

右富岡訴訟復代理人弁護士

舟橋直昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人は、

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙物件目録一、二項記載の装置を製造し、使用し、讓渡し、貸し渡し、または讓渡・貸し渡しのために展示してはならない。

3  被控訴人は、その事務所及び工場に存する前項の装置及びその半製品を廃棄し、同装置の製造に必要な金型、機械及び工具を除去せよ。

4  被控訴人は、控訴人に対し、金二〇万円及びこれに対する昭和六二年七月二五日から交払済みまで単五分の割合による金具を支払え。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決並びに4項につき仮執行の宣言を求めた。

二  被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  事案の概要及び争点

本件は、控訴人が被控訴人に対し、特許権侵害を理由として、被控訴人の装置の製造、販売等の差止及び廃棄等並びに損害賠償を求める事案であるが、その概要は、次のとおり当審における当事者双方の主張を付加するほか、原判決事実摘示中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

(一)  本件特許請求の範囲において「水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で」というのは、本件発明の主旨からみて、水と油性離型油とを分離して別々の貯槽に入れるということである。そして、「分離した状態で噴霧装置のノズル部に導く」を文言のまま解釈すれば、水貯槽に入れた水は管を介してノズル部に直接導き、油貯槽に入れた油は管を介してノズル部に直接導き、ノズル部で水と油とを初めて混合することである。しかし、本件の発明の詳細な説明及び図面に記載された実施例を斟酌すると、水貯槽に入れた水と油貯槽に入れた油とを管を介して三つ又金具で合流させたうえで管を介してノズル部に導くこともまた本件特許請求の範囲にいう「水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で噴霧装置のノズル部に導くことに」に当然包含されるものである。

このように、本件発明は油と水とを三つ又金具の個所で合流させることを必須条件にするものではないし、三つ又金具の使用は一実施例にすぎず、本件発明では三つ又金具を使用しないでノズル部で直接油と水とを合流させてもよい。従って、本件特許請求の範囲の解釈にあたっては、三つ又金具の直後で油と水とが混合しているかどうかを問題にすることは無意味であって、要は水と油とが分離された状態、即ち別々の貯槽に入れられているかどうかが問題である。

(二)  被控訴人離型油は不水溶性であり、本件発明の離型用の油に該当する。

(三)  原審の検証は、〈1〉 使用した油についての疑問、〈2〉 油と水との状態を観察できるほど透明なホースを使用していないこと、〈3〉 故意に流速を高めてホース内での攪拌効果を大きくして行ったこと、等不適切なものであったから、その結果を事実認定に供することは誤りである。

(四)  仮に本件発明の油を鉱物油と解すべきものとしても、被控訴人の離型油はその均等物である。

2  被控訴人

(一)  控訴人の本件発明における「混合させることなく分離した状態」の意義についての主強を争う。

本件発明において、水と離型用の油とは、岡一の管内に合流してノズル部に導かれるものであり、更にノズル部に至るまでの間、水と油が混合されず分離した状態(滴が乳化しないで水に浮遊した状態)でノズル部に導かれるものである。

(二)  本件特許請求における「離 用の油」は、界面活性剤等乳化剤を全く添加していない「鉱物油」のみからなるものを意味する。控訴人のように、これを「油性離型油」とか「不水溶性離型油」というのは右「油」という意味明瞭な記載を無視するもので特許法七〇条の規定に照らし許されない。

第三  証拠関係は、原審及び当審の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決一六頁三、四行目の体積の表記を削り、一七頁二、三行目「立法」を「立方」と改め、二二頁一一行目の次に行を変えて、次のとおり付加するほか、原判決の理由説示(「第三 争点に関する判断」と題する部分・原判決一五頁六行目から二五頁一行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

「なお、控訴人は、本件特許請求の範囲の「水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で」とは、本件発明の主旨からみて、水と油性離型油とを分離して別々の貯槽に入れるということであり、油と水とを三つ又金具の個所で合流させることを必須条件にするものではないから、三つ又金具の後で油と水とが混合しているかどうかを問題にすることは無意味である旨主張する。しかし、本件特許の構成要件Bには次の二つの方法が含まれると考えられる。〈1〉 水と離型用の油を別々の管でノズル部に導く方渋(この場合、離型用の油が界面活性剤等乳化剤を添加したものであると否と、又添加の程度を問わない。)。〈2〉 水と離型用の油を一本の管を通してノズル部に導く方法(この場合、離型用の油が水に規しまないものであることを要する。)。従って三つ又金具からノズルまでに混合しているかどうかを問題にする必要がある。このようにして、本件特許請求の範囲を控訴人の右主張のように解釈することは相当ではないから、その主張は採用することはできない。

ところで被控訴人の方法について三つ文金具からノズルまでの間の状況を見るに、界面活性剤の添加量の減少程度によってはノズルまでの間、混合が弱くて分離に近い状態の保たれることはあり得ると考えられる。しかし混合があれげそれだけで、安定度の如何に拘りなく、分離した状態ではないことになり、構成要件Bからはずれる。被控訴人の方法では三つ又金具部分で合流した水と離型用の油が、分離した状態でなしにノズルに導かれることは前記(原判決引用)のとおりである。なお、被控訴人の離型油が本件発明の油の均等物であるとする控訴人の主張は、右の次第で理由がない。」

二  よって、原判決は相当であって、本件挫控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官  島 夫 裁判官 菅英昇 裁判官  部秀 )

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